本好きナースマン

色んな本を読んで日々の生活に潤いを与えています。目指すは年間100冊読了。

レゾンデートル 知念実希人

この秋始まった、玉森裕太さん主演の『祈りのカルテ』。研修医として奮闘する玉森さんの演技が素晴らしかったですね。

特に、元旦那にDVを受けていた山野るか役の仁和紗和さんの演技がよかった。辛くて誰かに理解してほしいけど、人に言えず苦しんでいる。そんな雰囲気が見事に出てましたね。

精神科の次は、外科に行くという事で次回も楽しみです。

その祈りのカルテの原作者である、知念実希人さん。

小説家でもあり、現役の医師でもある。沖縄で生まれ、東京で育つ。昔から本が好きで、書いてみたいという思いはあったようだが、祖父や父と同じ医師の道に進む。

現在は父の医院で働きながら、執筆活動に取りん組んでいるのだそう。

以前、読んだ「仮面病棟」も面白かったし、人気作の「天久鷹央の推理カルテ」シリーズもコミカルで読みやすく面白い。

 

2011年「誰がための刃 レゾンデートル」(応募時のタイトルがレゾンデートル)

で第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、2012年同作で作家としてデビュー。

 

レゾンデートルとはフランス語で、「Raison  d'etre」。フランスの哲学用語で直訳すると、存在理由や存在意義とされる。しかしそれは、周囲が認める存在価値という意味ではなく、自分自身が求める存在意義や、生き甲斐を指す言葉だそう。

 

文庫で470ページほどあり、けっこうなボリュームであるが、それを感じさせない内容で一気読みし、最後には切なく泣ける、良い作品でした。

岬雄貴、南波沙耶、松田公三、柴田真琴、J、宇佐見正人、楠木真一。登場する人物たちが自分の存在意義を確かめるように物語が進む。この話において、誰が良い奴で、誰が悪党かという概念を持つことは難しいのかもしれない。切り裂きジャック=Jは間違いなく悪党である。しかし、そのJにおいても過去の事件が発端となっている。

どんなに良い人間であっても、1つの大きな出来事で人生が一転し、殺人者になることもありうる。

医者として順調に人生を歩んでいた岬雄貴、しかし胃の不快感が原因で検査をすると進行性のステルス胃がん、ステージⅣで根治が難しい状況であった。人生の奈落の底に落ちた岬は、ある出来事で人を殺めてしまう。そして、そこから切り裂きジャックとの奇妙な関係が始まる。人を殺めることで、生きがいを見出しつつあった岬と南波沙那が出会い、岬の心にも変化が生まれ始める。最後の結末には涙必至です。

 

知念さんの作品は、物語の中で語られる医療系の内容の専門性が高く、さすが現役の医師という印象で読みながら勉強にもなる。そして、世界観に引き込まれる圧倒的な作風。そして、感動もあり読む手が止まらないです。

今回の作品はなんといっても目次から気になりました。

プロローグ、第1章否認、第2章怒り、第3章取引、第4章抑うつ、第5章受容、エピローグという構成になっています。

医療に従事している人ならあっと感じると思いますが、1~5章のタイトルはキューブラ=ロスの「死の受容過程」として有名な言葉です。看護師も学生時代に習う言葉です。

人が受け入れ難いことを告知されると、十人十色ではあるが、一般的にこの5段階を踏むといわれています。

岬という現役の医師がステルス胃がんと告知され、どうして自分だったんだ、それは嘘ではないのかという否認から始まり、怒り、取引、抑うつ、受容というタイトルに沿いながら物語が進んでいくので、そういった所も見ものですし、Jの正体が誰なのかという推理もしながら読んでほしいと思います。