本好きナースマン

色んな本を読んで日々の生活に潤いを与えています。目指すは年間100冊読了。

温泉手帳 松田忠徳

筆者の松田さんは北海道洞爺湖温泉生まれ。

東京外国語大学大学院、モンゴル国医科大学院博士課程修了。

日本で初めて温泉を学問として捉え、『温泉学』という分野を切り開いた温泉教授の異名で知られる温泉学の第一人者。

 

日本は環太平洋造山帯に位置し、地震や噴火という天災が多い国だが、一方で温泉という恩恵もあり、全国津々浦々さまざまな温泉地がある。まさに、自然とともに生きてきた。私が現在住む北海道にも、登別温泉をはじめ、十勝川温泉、阿寒湖温泉、川湯温泉層雲峡温泉糠平温泉洞爺湖温泉、定山渓温泉などなど、思い出すだけでもけっこうな数が出てくる。しかし、温泉地に行き、非日常的な時間を過ごし満足して帰ってくるものの、意外と温泉の成分については入浴するときにちらっと見て、その気分を味わっている程度で、後から思い出すと成分についてはよくわからないというのは案外あるあるだったりする。

本作では松田さんが泉質から、その泉質が有名な温泉地、温泉の歴史や起源など温泉の愉しみ方まで紹介してくれている。この1冊を読むだけで、温泉の楽しみ方がさらに高まること間違いなしかと思います。

その中でも泉質についてだけ少し紹介と北海道の温泉地を紹介します。

単純温泉

温泉水中の溶存物質量が1kg中に1000mgに満たないが、泉温が25度以上のものを指す。温泉法で定められた特定成分が基準値に達していないものの、さまざまな微量成分が含まれていて、すべて同じ組成というわけではない。近年人気のアルカリ性単純温泉はpH8.5以上の単純温泉を指す。

日本の温泉の泉質の中でもっとも多く全体の40%以上を占める。その多くが泉温が35度以下。地下水が岩石の成分を溶かさず比較的短時間で湧出したため含有成分が薄い。近年はメタケイ酸やメタホウ酸を含んだものが多く、ぬめりがあり、美肌つくりの湯として女性に喜ばれる。道後や下呂修善寺、鬼怒川、湯布院などがある。

入り方

アルカリ性単純温泉は、浴語は清涼感があって気持ちがいいが、冷えやすいので保温に気を付ける。とくに幼児・高齢者の湯上り直後の冷えた飲み物は控えた方がよい。

効能

神経痛、関節痛、腰痛、傷や運動器障害にも有効。含有成分が薄く刺激が少ないため、術後や脳卒中、高血圧症、動脈硬化、回復期における保養やリハビリに適。

美肌効果が高い。

 

北海道の温泉地

阿寒湖温泉、層雲峡温泉

 

食塩泉

溶存物質量が温泉水1kg中に1000mg以上あり、陰イオンは塩素イオン、陽イオンはナトリウムイオンが主成分で、結合し食塩を形成するもの。1kg中に食塩15g以上を含有するものは強食塩泉、5g未満を弱食塩泉。

単純温泉の次に多い泉質だが、総湧出量になると全体の半分を占める。熱海、指宿、白浜など代表的な食塩泉は海辺が多い。海辺は海水が浸透するから塩分濃度が強い。一方で内陸部の地下深部にマグマ性の熱源をもつ定山渓や、黒川のような温泉の濃度は薄い。

 

入り方

食塩泉は温まり方が早く、発汗作用に優れているため、入浴前後の水分補給が大事。無理な長湯はさけ、分割入浴がよい。毛穴に付着した塩分は浴後の保温力を持続するうえで大切なので、上がり湯にシャワーを使わずにそのまま上がる。

 

効能

保温効果が高いので冷え性の人、神経痛、関節痛、切り傷、打ち身、やけど、慢性皮膚病、慢性婦人病。飲用では胃腸病、便秘など。吸入では慢性気管支炎、咽頭炎に効果。

 

北海道の温泉地

定山渓温泉十勝川温泉、朝里川温泉

 

重炭酸土類泉・重曹

重炭酸土類泉は陰イオンがヒドロ炭酸イオン、陽イオンはカルシウムまたはマグネシウムが主成分で結合して重炭酸カルシウム・重炭酸マグネシウムを構成。重曹泉は陰イオンがヒドロ炭酸イオン、陽イオンは80%以上がナトリウムで結合し重炭酸ナトリウムを構成。

 

入り方

清涼感とともに冷の湯と言われるように冷感も覚えるので、浴後に冷たい飲み物は控える。温泉成分が石鹸の役割を果たすので、必要以上に洗い流すと浴後、皮脂が失われる。湯上り後は早めに保湿クリームを塗る。

 

効能

重炭酸土類泉は鎮静効果があるので、蕁麻疹、アレルギー性疾患や慢性皮膚病によい。飲用で利尿作用があるので痛風、尿路結石に効果的。

重曹泉は、皮膚表面の脂肪分や分泌物を乳化するので美肌効果。飲用では胃腸病、糖尿病、胆石、初期の肝臓疾患。

 

北海道の温泉地

重炭酸土類泉

愛別町の協和温泉、鹿追町かんの温泉定山渓温泉

重曹

阿寒湖温泉、知床温泉、川湯温泉

 

硫酸塩泉

陰イオンとして硫酸イオンが主成分のもの。主な陽イオンの種類によって①芒硝泉(ナトリウム)、②石膏泉(カルシウム)、③正苦味泉(マグネシウム)などに分けられる。

古湯、名湯と呼ばれる温泉には、硫酸塩泉がじつに多い。

 

入り方

入浴前後の水分補給をしっかりと。循環器系の疾患の人は無理して長湯せず分割入浴。

効能

保温効果が高い。①では高血圧症、動脈硬化症、外傷など、飲用で便秘、糖尿病、痛風。②では昔から傷の湯と呼ばれ、やけど、外傷、皮膚病など。③では降圧作用があり、高血圧症や動脈硬化脳卒中など。

 

北海道の温泉地

天人峡温泉

 

炭酸泉

1kg中に遊離二酸化炭素を1000mg以上有する。ヨーロッパと違い活火山が多い日本では、泉温が高く、ガスが揮発しやすいため稀少。

長野県の八ヶ岳周辺や長野県と岐阜県の県境地帯。他にも点在するのみで少ない。

 

入り方

泉温が40度を割るものが大半で心臓に負担をかけずに長湯ができる。泉温は低いが血管拡張作用があり、実際には2,3度高く感じられることが多い。

 

効能

炭酸ガスが皮膚から吸収され、毛細血管を拡張するため、血圧を下げたり血流を促進させ、特に高血圧症や心臓病のほか、糖尿病、肝臓病などに効果がある。ヨーロッパでは「心臓の湯」と呼ばれ、評価が高い。飲用では、胃腸病、痛風、便秘。

 

 

鉄泉・緑礬泉(りょくばんせん)

1kg中に総鉄イオンを20mg以上含むもの。主たる陰イオンが炭酸水素イオンの場合は炭酸鉄泉、硫酸イオンの場合は緑礬泉に分類。

昔から赤湯と呼べれてきた鉄泉は、かの天下人、豊臣秀吉もぞっこんだった有馬温泉知名度もあり、日本人の好きな泉質。

 

入り方

鉄泉は茶褐色のイメージがあるが、湧出時は無色透明で、酸素に含有されている鉄分が酸化鉄になるため変色。入浴も飲用も可能なかぎり湧き立ての無色透明に近い湯を選ぶ事が、鉄泉の正しい入り方、飲み方。

 

効能

関節痛、皮膚病、慢性湿疹、更年期障害。飲用では貧血に効果的。

 

北海道の温泉地

恵山温泉、見市温泉

 

硫黄泉

1kg中に総硫黄を2mg以上含有するもの。遊離の炭酸ガス硫化水素を含まない単純硫黄泉と硫化水素泉の2種類がある。

火山列島に住む日本人が最も温泉らしいと感じる泉質は「にごり湯」の主役、硫黄泉。硫黄泉と火山の分布は一致しており、東日本や九州によく見られる。

 

入り方

血行を促進し、体温の上昇が早いため、入浴前後の水分補給に気を付けることと長湯を控える。成分が強い場合、幼児や高齢者は、湯あたり予防や皮膚粘膜を守るため、上がり湯を利用する。

 

効能

硫黄泉は万病に効くと言われてきたように、広範な効果が知られている。

末梢血管拡張作用があるので、高血圧症、動脈硬化症、心臓病。喘息にも効果がある。また硫化水素は解毒作用もあるので、入浴、飲用によって金属中毒、薬物中毒に、及びその強い殺菌作用は湿疹、疥癬など慢性皮膚病に特効があるとされ、飲用でも血糖値を下げる効果もある。

 

北海道の温泉地

登別温泉、小金湯温泉

 

 

酸性泉・酸性硫黄泉

1kg中に水素イオンが1mg以上含有するもの。

火山ガスからの賜りもの。

 

入り方

肌への刺激が強いため、敏感肌の人は入浴を控えたほうがよい。皮膚の湯ただれを防ぐため、真湯の上がり湯を利用するのもよい。長時間の入浴は避ける。

 

効果

殺菌作用に優れ、水虫、湿疹、疥癬など慢性皮膚病に効果的。飲用で慢性消化器病にも。

 

北海道の温泉地

川湯温泉十勝岳温泉

 

ラジウムラドン

 1kg中に一定数(計算値が難しいかったです・・・)以上のラドンを含有するもの。

放射能というと敏感になりがちだが、天然の極微量の放射能はむしろ人間の免疫を高めてくれるといわれる。

 

入り方

吸入法が最も有効的なので必ず源泉100%かけ流しの新鮮な湯に浴したり飲用する必要がある。

 

効果

利尿効果が高く、痛風、糖尿病、尿路の慢性炎症などに効果的。鎮静作用があり、自律神経のバランスを整える。血圧降下などにもよい。

 

 

北海道にはモール温泉と呼ばれる珍しい泉質もあります。植物モール泉と呼ばれ、モールとはドイツ語で「腐植質」(泥炭)を意味し、腐植質を多く含む泉質をいいます。植物の遺骸が十分に分解されず堆積したものです。数百万年前の地層から湧出し、通常は濃い茶色(コーラ色)をしています。世界的にも珍しい泉質で、温泉法の規定とは別概念のもの。日本では北海道の十勝川温泉が代表的な温泉地。