本好きナースマン

色んな本を読んで日々の生活に潤いを与えています。目指すは年間100冊読了。

家族じまい 桜木紫乃

2020年に発行の本作。

親の終活、老々介護。親の老いを見つめる家族の行き先とは・・・

 

看護師の仕事をしていると、正直な所、どんな病気よりも、元気な認知症が一番厄介であると感じている。(あくまで個人的な感想であるが)

昔の記憶はあっても、近時記憶というのはどんどん忘れていくため、少し前に食べたご飯の記憶や、おしっこをしたことを忘れ、同じ訴えを繰り返し求める。歩ける方だと、気づいたらどこかにいなくなるなど命の危険にも直結するため、在宅で認知症の家族を介護するというのは本当に骨折りなことである。

本作では、認知症の母(サトミ)と齢を重ねても横暴な父(猛夫)が物語りの中心でその取り巻きにいる5人の女性からの視点で、全5章で話が展開される。

第1章 智代

猛夫とサトミは釧路で2人で住んでいる。智代は2人の長女にあたり、江別に住んでいる。釧路からは車でも5~6時間程度の距離。

猛夫は美容師で智代もその父の期待もあり、美容師の道を目指すも父の借金などでその道をあきらめざる負えなくなった智代は、客だった啓介と半ば駆け落ちという選択をし、親とは疎遠となる。啓介はいわば転勤族の人間であり、道内を転々とし、子育ても終わり、江別を終の棲家とした。

ある日、妹の乃理から電話で母が認知症になっているという話を聞く。長い間、家族と距離をとっていた親子の心情が中心に話が進んでいく。

 

第2章 陽紅

陽紅(ようこ)は啓介の弟の涼介の妻にあたる。直接的にはサトミや猛夫との接点もなく、話しの中にもほぼ出てこない。涼介は札幌での事業に失敗し、親のいる十勝に落ち着き、50代を独身で迎えた。親は跡取りが必要だと、農協の窓口にいた陽紅を気に入り、お見合いをセッティングする。20代と50代。この2人が結婚するという事実の裏側には、親の思いや、夫の考え、妻の考え。それぞれが交差し複雑さを増す。

 

第3章 乃理

乃理はサトミと猛夫の次女にあたる。函館に住んでいるが、親の事を長女以上に考えてきた。一時は、2人を函館に呼んで、2世帯同居を始めるが・・・。

 

第4章 紀和

紀和はサックス奏者であり、5人の中では最も関係性は低く、サトミと猛夫が本州への旅行の帰りに乗ったフェリーで演奏していたのが紀和という人物で、紀和の音楽に昔を思い出し、知人になった人物である。紀和もまた、両親が離婚という選択をしており、離婚して適度な距離をとる2人と今回知り合った猛夫とサトミの認知症になった妻をいっぱいいっぱいになりながら支える夫の2人という、いわば反対の道を選んだ2つの両親像を比較しながら物語が展開される。

 

第5章 登美子

登美子はサトミの姉にあたる。阿寒で旅館の仲居を長く勤め、今も現役で働いている。性格的に淡白な所があり、実の娘への愛情もたんぱくゆえ、長女には、還暦と同時に親子の縁を切り出される。そんな折、ふとサトミの事が気にかかり、2人のもとを訪ねることになる。その頃の2人はサトミも認知症が進み、猛夫も自分のこともほとんどできないような状態になっていた。終活に向けて、話は進んでいく。

 

家族という1つの単位について考えさせられました。自分自身も親と離れ、20年近く。父も70代になり、今はまだ元気に仕事もしているが、いつどうなるか。人間だれしも寿命があって、生まれた時から死に向かってのカウントダウンが始まる。長いようだけどあっという間の人生。自分は今、30代の後半にさしかかり、男性の平均寿命でいけば折り返しに近い。これからどう生きるか、どうしたいか、親とどう在りたいか、子供とどう関わっていくのかなど色んな事を考えさせられる作品で非常に良かったです。