本好きナースマン

色んな本を読んで日々の生活に潤いを与えています。目指すは年間100冊読了。

私が先生を殺した  桜井美奈

タイトルに惹かれ、読了しました。

全部で5章で構成。各章では砥部律、黒田花音、百瀬奈緒、小湊悠斗、奥澤潤という人物が中心になって物語が展開されていく。

 

「ねぇ・・・・あそこに誰かいない?」

昼休みに避難訓練で集合した全校生徒や教師。その中の1人が屋上を見て、そうつぶやいた。そこにいたのは学校一の人気教師、奥澤潤。奥澤はフェンスを乗り越え、屋上から1歩踏み出し、そのまま宙を舞った。

その後、生徒たちが教室に戻ると教室には「私が先生を殺した」というメッセージが残っていた。

砥部、黒田、百瀬、小湊と生徒の語り手が次々と変わり、次第に事件の全体像が見えてくる。

高校3年で大学受験に向けてそれぞれの思いが交差する。将来への夢が見いだせず、授業に集中できない砥部はいつも携帯をいじっており、SNSへ投稿することや、授業の妨害をすることで自分の存在価値を見出していた。そんな時、彼がネットで見つけたのは人気教師の奥澤が女子生徒と抱き合い、胸を触っているという動画。それをネットに拡散した。この動画の拡散が先生を追いつめたのか?

 

黒田はクラスでも上位の成績。金銭面のこともあり、特待生として希望の大学に推薦として準備を進めていた。しかし、ある時、突然に推薦は他の生徒に決まったと知らされる。納得がいかず、黒田は奥澤先生に何度も抗議する。先生はただただ、申し訳ないと謝るばかり。黒田の鬼気迫る訴えが先生が追いつめたのか?

 

百瀬はじゅんじゅんという位、奥澤先生が好きだった。近づくために苦手だった英語も英語教師の奥澤先生に質問することで、今や学校上位の英語の成績にまでなった。先生は教師と生徒という境界をきちんと守り続けた。しかし、黒田と2人で話をしている姿に嫉妬しおかしくなった百瀬は先生に黒田さんとの秘密を知っていますと脅しかけるように迫る。そして・・・ 百瀬のこの後の行動が先生を追いつめたのか?百瀬は先生が自殺した後、教室で私が先生を殺したの!と叫ぶ。しかし、黒板に文字を書いた覚えはない・・誰が黒板に書いたのか?

 

小湊はクラスでもそこそこの成績で、特に目立った存在ではない。将来について特にしたいことはない。しかし、小湊の父は病院の外科部長、母や薬学部の准教授、祖父が病院の院長、兄も医学部に通う代々医師の家庭である。医師になることを当たり前に言われていたが、自分には向いていないと医師の道は諦めていた。歴史は好きだという小湊はある大学の史学部なら特待制度で行けることを知る。医師以外の道なら学費の面など期待できない部分が多いと踏んでいた小湊はダメ元で奥澤に相談する。黒田の事を知っていた奥澤は成績的にも小湊は難しいと当初言っていたのだが、急遽、小湊に変更になった。何で自分になったのかという疑問を奥澤に尋ねるも理由をはっきり明かさない。

そして、どんどんやつれていく奥澤。そして、自分の変更がきっかけで黒田をおかしくさせ、先生を追いつめたのかと悩む・・・

 

4人の生徒が少しずつ絡み合い、事件の概要が少しずつ見えてきた所で最後に奥澤へと移る。奥澤の高校時代の出来事から現在、教師として忙しい毎日を送る日々。

そしてSNSへの動画がきっかけで、奥澤は担当を外れることになった。しかし、奥澤は自宅謹慎ではなく、学校で謹慎するという選択を希望した。奥澤はなぜ学校にいることを決めたのか?奥澤が死んだのはSNSの動画による自殺なのか?それとも他殺なのか?そして徐々に真相が見えてくるとき、秘められた真実がわかり、心が締め付けられる。SNSの動画をネットにアップしたのは誰か?黒板に文字を書いたのは誰か?

 

文章事体も読みやすくて、高校生3年生という大事な時期で将来への不安や思春期という時期、親からの期待など色んな面で不安定になりがちな高校生のリアルを描いているからこそ、感情移入しやすく切なさや辛さを読みながら感じることができた。

そして、奥澤先生という人物を通して、高校生の時に悩んだ人間がその10年後教師という道を選び、大変な毎日を送るというリアルな面を見せることで、いかに教員が大変かという事を知ることができたし、その中で巻き起こるリアルな問題にも直面することになる。

さぁあなたはどのタイミングで事件の真相に迫ることができるか。

非常に面白い作品でした。

桜井さんの作品を初めて読みましたが、他にも「殺した夫が帰ってきました」、「きじかくしの庭」など興味深い作品があるので読んでみようと思います。