ラーゲリより愛を込めて 辺見じゅん
ダモイ(帰国)を信じて・・・
友人より、勧められて読みました。一気読み必死。そしてハンカチも必須。
子供の病院受診の付き添いで待合室で待っている時にクライマックスを迎え、読みながら涙が出てくるんです。
12月9日に二宮和也さん、北川景子さん主演で映画化されます。
その前に、原作もぜひ読んでほしいと思います。
ラーゲリとはロシア語で収容所のことを指す。
二宮さん演じる山本幡男さんは実在した人物で、WWⅡ中、大日本帝国は満州国をはじめ、アジア各地を植民地としていた。しかし、終戦間近の日本は各地で劣勢を期しており、山本さんがいた満州もその1つであった。当時、ソ連とは日ソ不可侵条約を締結していたので、日本はアメリカからの攻撃に備えていたが、突如、ソ連が日ソ不可侵条約を破棄し北から満州へ攻撃をしかけた。
山本さんとその家族は満州で離れ離れになる。山本さんはソ連軍に連行され、ラーゲリへ。家族はなんとか日本に逃亡することができた。
山本さんは東京外国語大学にも在籍しており、語学が堪能、ロシア文学も好きでロシア語も好きであった。ラーゲリにいる時は、誰もがダモイが叶わないかもしれないと思う中、1人信じ続け、そして仲間を励まし、時にはみんなで句会を開くなど、精神的支柱となった。自身は癌に冒され、ダモイは叶わなかったが、励まし続けた仲間のダモイが叶い、山本さんの遺書などをそれぞれが妻のもとに届ける。
妻のモジミは満州から帰国した後、子供4人を1人で育て、山本さんの母も支え、1人奮闘し夫の帰国を信じ続けた。長男は勉学に励み、東京大学に合格。夫との再会は叶わなかったが、ラーゲリで共に過ごした仲間からの遺書や思い出を順番にもらう。
原作では4人が届けるという話で、次々に届けられたイメージだが、実話では6人の仲間で最後の遺書が届けられたのは、1987年の夏で、実に山本さんの死から30年以上経過し、奇しくも山本さんの三十三回忌の盆にあたる日だったそう。
山本さんのように当時、ソ連軍に強制連行された日本人は多く、占領された満州、朝鮮半島北部、南樺太、千島列島で戦後にかけて抑留された日本人は約57万5千人にのぼる。厳寒環境下で、満足な食事や休養も与えられず、苛烈な労働を強要されたことにより、約5万8千人が死亡した。
歴史上、戦争はいつの時代も続いた。そして、奪うもの、奪われるもの。それは一時的なものであり、いつかは立場も逆転する。しかし、奪っている時、人はそして国は傲慢になり、人を殺めた人物を英雄とする。生きるため、自国の発展のために戦うことは必要なのかもしれない。しかし、こうしていとも簡単に人を殺すということが決して当たり前にはなってはいけない。今もロシアの軍事進攻が続いているし、貧しい国では戦争や犯罪は当たり前のように行われている。
日本はもちろん小さな犯罪は日々あるものの、戦争という大規模なものは起きていないし、戦争をしないとうたっている国である。しかし、戦後70年余りが過ぎ、今もなお戦争の悲惨さを直接語られる方々もいるが、あと十数年もすれば戦争の経験者自体がいなくなる。そして、ロシアや中国、北朝鮮といった軍事大国が隣国に接しており、いつ侵攻されてもおかしくない脅威にさらされている。そうした時、私たちは本当に戦争をしないと言いきれるのか、生きるため、家族を守るためにどう行動するのか。
できることなら人が簡単に死ぬような事があってほしくない。世界が平和の道に向かって何かいい方法がないか、武器ではなく、話し合いや手を差し伸べて共同で歩んでいける道を模索できる、そんな世界になってほしい。
ところで、今回の本の中で山本さんが「愛しのクレメンタイン」という歌を口にしていることがあった。
アメリカ西部開拓時代発祥の民謡バラードで、1946年アメリカ映画「荒野の決闘」の主題歌になったことで元の歌自体も広く知られるようになった。
詩は、1848年から1855年の間に起きたアメリカ西部のゴールドラッシュの金鉱掘りの娘を、水死によって後に残された恋人が愛しむ内容。