本好きナースマン

色んな本を読んで日々の生活に潤いを与えています。目指すは年間100冊読了。

完璧な母親  まさきとしか

この本を読み終わったとき、色んなことを考えさせられた。

第1章では夫と6歳の息子、そして妻の友高知可子の話。知可子の視点で物語は進んでいく。知可子は数年の流産を繰り返した後、諦めかけた時に息子を授かった。そして幸せな家族であった。しかし、悲劇は突然に訪れる。息子は学校の帰り道、池に落ちて溺死してしまう。この悲劇によって、彼女自身や家族の人生を大きく狂わせる。

 知可子は驚くべき発想を思いつき、息子、波琉の誕生日と同じ日に再び子供を産む。

流産を経験し、次の子供は難しいと医師からも言われていたし、現実的に妊娠のタイミングなども含め、同じ誕生日に産むという事は非現実的であるが、それは母が天に願った賜物なのか、実現することに。産まれた子供は女の子であり、知可子は波琉子と名付けた。そして、2度と同じ過ちを繰り返さないと完璧を求め始め、そして波琉子に波琉の思いを乗せ、育てることに。誕生日には2人分のプレゼントを、ケーキは波琉子ではなく、波流の年齢分のロウソクを用意し、娘に自分は兄の生まれ変わりと常に意識させるように。。。

1章では、狂気に満ちている母親像を目撃することになるが、しかし、自分の最愛なる息子を亡くし、奇跡的なタイミングで2人目を授かれば、異常な愛も異常ではなくなるのかもしれない。(波流子の気持ちはどうあれど・・・)

 

第2章では、時代は進み、2010年代。新聞社に勤務する田尻成彦という人物の視点で物語は進む。成彦は30近くになる今も赤鬼が夢に登場することがある。その赤鬼とは彼の首を絞め、思い切り投げ飛ばす彼自身の母親。2,3歳の頃から母に虐待を受け、小1の時に赤鬼の正体に気付いた。母はある事件を起こし、姉の秋絵とともに成彦の前からいなくなる。自分は赤鬼の子供、いつかその赤鬼を殺してしまうかもしれない。婚約を間近に控えていたが、そうした過去の記憶に囚われ、前に進めない成彦は過去に向き合う決意を固める。5年前に死んだ父の戸籍を調べると、母と姉は健在であることを知る。20数年ぶりに姉とまず対面するのだが、秋絵は自分が池で溺死した男の子の生まれ変わりだと主張する。ここで初めて、1章の人物と2章の人物が関連づいてくるのである。成彦はなぜ姉が不可思議な事を言っているの、溺死したという男の子を調べるうちに昔、自分たちが住んでいた家の近くの池で男の子が溺死したという事実を知る。その過程で知可子の娘、波琉子と出会う。

 

そして第3章はその波流子の視点で進む。幼少期、常に波流を意識させ続けられた波流子。彼女がどのように育ったかが描かれる。そして時代をさかのぼっていくと、兄の波琉がどうして溺死したのかその驚愕の事実も判明。

 

母たちの狂おしいほどの愛や狂気、それによって奔走される子どもたちや家族。母たちが悪いのかと言われればそうではないと思う。子育てに正解はないし、常に目の前の事に精一杯で生きている。そうした強い思いが時としてこうしたことにも繋がってしまうのかもしれないし、それを周りが理解するのは難しいのかもしれない。完璧な母親、父親、子供はいない。しかし、結婚し、子供が生まれれば、それぞれに役割が生まれる。その小さなコミュニティは社会に出るための最初のコミュニティであり、そのコミュニティは千差万別であり、答えはない。

家庭を作るという事、子供を育てるという事、この本を読むとミステリー要素の中に色々と考えさせられることが多かった。