本好きナースマン

色んな本を読んで日々の生活に潤いを与えています。目指すは年間100冊読了。

桜木紫乃さん 無垢の領域に触れ

先日、ニュースで釧路市の人口が17万人を下回ったという報道がありました。20万都市と言われたのは随分前の話しになってしまいました。人口減少の煽りは地方都市ほど強く影響を受けているように感じます。

 

しかしながら、閑散としていた駅前通りにも新たな大型マンションや図書館の建設など少しずつ活気を取り戻そうとする姿も見られます。

この大型マンション、デュオヒルズ釧路はなんと道東エリアでは約10年振りの新築分譲マンションなのだそう。

地上11階、全70戸。この3月から入居開始予定だそうで、つい先日も前を通りかかるとマンション前の道路を舗装していまいた。いよいよかという感じです。

 

建物の向きから考えると眼下には北大通が見渡せ、夏のイベントである港まつりやくしろ市民北海盆踊りといったパレードを見るのはもちろん、なんといっても釧路川に打ち上げる花火大会、霧フェスティバルや港まつりの際の三尺玉といった目玉は人混みに関係なくその眺めを一望できそうです。正直羨ましい。

 

 

桜木紫乃さんの作品を日々読んでいる私ですが、作品の中には駅前から幣舞橋辺りがよく登場してくるなと印象を受けています。そして、作品には男女の切ない物語などを描くものが多く、その切なさや寂しさを街の雰囲気を記載することでより高めているようなそんな感じがしています。

 

そして、今回読んだのは「無垢の領域」という作品です。

野心はあるものの自分の殻を破れず、書道教室の先生に甘んじている書家の秋津、その妻で養護教諭の怜子、そして民営化された釧路図書館に館長として乗り込んできた林原の3人は、見たくないものに蓋をし、何かを諦めながら自身の心の均衡や、他人との距離のバランスをとっている。皆、心の奥底に本当の思いを沈み込ませて。あるいは、気づかぬふりをして。

そんな一見平穏な日々を乱す存在として登場するのが、林原の妹の純香。25歳という年齢に心の成長が追い付かない疾患を抱える。あまりに純粋無垢であるがゆえに、3人の心の隙間に隠していたものを少しずつ浮かび上がらせてしまう。

 

今回の作品を読みながら人は日々の生活の中で自分の感情に蓋をしながら、その蓋をうまくコントロールしながら生きている。しかし、心の感情に均衡が保てない時、人は自分を見失い、社会の規範から逸脱した行為を起こし、社会的制裁を受けることになる。

生きることは難しい、でもその中で喜びを得られるからこそ前に進めるんだなと、そう感じさせてくれる作品でした。

夜勤の帰り道、ふと図書館に寄ってみました。先ほども述べたように現在、市立図書館は北大通に新築移転し、新たなシンボルになっています。

旧図書館は今も変わらず、作品の中に登場した場所にその姿を残してくれているので、寄ってみました。

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3月なのに先日の爆弾低気圧により、一夜にして大雪となり、この姿です。入り口にはベニヤ板が貼られ封鎖されています。

 

無垢の領域の冒頭に

秋津龍生は市立釧路図書館のロビーに立ち、丘の上に広がる景色をみた。図書館は築40年、秋津が2歳のときに建てられたものだ。幼いころ母と連れだって歩いた記憶のなかで、この場所はとても華やかだった。乳白の建物は、港と駅前通りと釧路川を見下ろす場所で、海と一緒に街の栄枯を見つめていた。

晩秋の雨は冷たく、雨の景色を煙らせている。静かだ。細やかな雨が街の音を吸収していた。幣舞橋と黒い川面は、墨絵にしているといつも思う。

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これは図書館横の駐車場から撮影。

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これは図書館近くの幣舞公園という所から撮影しました。

幣舞橋と釧路川、確かに墨絵という表現はピッタリかもしれません。しかし、このどこか色のない感じが夕日や夜のネオンといったものをより美しく浮かび上がらせてくれるのかもしれません。

 

また、作品を読みましたら掲載していきたいと思います。