本好きナースマン

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ユートピア 湊かなえ

ユートピア

イギリスの思想家トマス・モアが1516年にラテン語で出版した著作『ユートピア』に登場する架空の国家の名前。理想郷(和性漢語)とも呼ばれる。現実には決して存在しない理想的な社会として描かれ、その意図は現実の社会と対峙させることによって、現実への批判を行うことであった。

ただし、ユートピアという言葉を使う時は注意が必要で、現代人が素朴に理想郷としてイメージするユートピアと違って、トマス・モアらによる「ユートピア」には格差がない代わりに人間の個性を否定した非人間的な管理社会の色彩が強く、決して自由主義的・牧歌的な理想郷(アルカディア)ではないためである。従って、本来の意味からすると、社会主義共産主義の文脈で用いられる言葉である。

ユートピア - Wikipedia

 

題名のタイトルである、湊かなえさんの作品ユートピア

舞台は太平洋を望む美しい景観の港町・鼻崎町。昔から住む住人と新たな住人が混在する町で生まれ育った久美香は、幼稚園の頃に交通事故に遭い、小学生になっても車いす生活を送る。陶芸家のすみれは、久美香を広告塔に車いす利用者を支援するブランドの立ち上げを思いつく。出だしは上々、しかしある噂がネットで流れ、徐々に歯車が狂い始める。緊迫の心理ミステリー。

 

3人の女性、仏具屋の奈々子、陶芸家のすみれ、転勤族の妻である光稀。そして奈々子の娘である久美香、光稀の娘である彩也子。この辺りが中心となって物語が展開されていく。

3人の女性が主観と自我を主張しながら、それぞれの理想を追い求める生活を追及している。そして、この3人が思い描いているのはまさに、現代人が描く素朴なユートピアだが、ネットやリアルの情報網や噂によって生きづらいリアルの中でもがく、ユートピア本来の意味であるどこか社会主義的な世界で苦しんでいる内面が描かれているのが印象的である。自由に生きているようで自由ではない。

そんな3人の女性の苦しい内面に理解しつつも、また一方で自我も強く、それぞれの主張が絡み合い、殴り合いのような展開になっている(実際に殴り合っている訳ではない)。そのため、途中で表面的にうまく付き合っているような話の展開にも必ず内面が描かれ己の正当性を主張する話の展開がどこか嫌な気持ちにさせ、心理的イヤミスという展開にどんどんはまっていく。

 

そして、車いすで生活を送る久美香、久美香を火事から守るために額に傷を負った光稀、2人もまた学校や周囲からのいじめや噂の中で生きづらいながらも2人で秘密を共有する。その2人の秘密が最後に明らかになる。