本好きナースマン

色んな本を読んで日々の生活に潤いを与えています。目指すは年間100冊読了。

あなたの隣にいる孤独  樋口有介

14歳の玲菜には戸籍がない。学校にも行ったことがない。

母と2人、住む場所を転々としてきた。あの人から逃げるために・・・

そんな2人は今、川越にいる。

玲菜は学校の教科書を1年遅れて、川越屋というリサイクルショップで買って自分で勉強していた。

今年も、去年の買いに川越屋へ。すると店にはいつもいた人ではなく、冴えない青年が。そして、「君は去年も教科書を買った人?」と聞かれる。いつもいた人は去年、教科書を一生懸命探していた女の子のために、一式をまとめて取っておいてその子が来たら売るようにと青年に伝えていた。青年は店員の孫でケガして入院している間、店番を頼まれていたのだそう。

そんな矢先、母から電話で「あの人がきた。だから家には帰らないで。」2,3日したらまた連絡すると言い、電話が切れた。玲菜にはいく当てがないが、川越屋に寄って休憩させてほしいとお願いする。小説家志望の青年はどこか奇妙、しかし、どこか安らげる雰囲気を持ち、玲菜は今の事情を話す。

玲菜と青年と祖父と。3人が織り成す心温まる物語。

そして、母がいうあの人とは誰なのか?母は何から逃げているのか?

徐々に明かされていく真相。玲菜の運命はどうなるのか?

文体が読みやすく、3人が会話していくスタイルで進んでいくので読みやすい。結論としては、あの人との意外性、そして玲菜の素性が明かされた時は驚いた。

 

1950年生まれの樋口さん。年齢の割に作品が堅苦しくなく、柔らかい感じの作品で、初めて読んだが面白かった。

 

しろがねの葉  千早茜

昨年の直木賞受賞の本作。

舞台は島根県石見銀山

著書の千早さんは北海道出身。そんな千早さんがなぜ昔の石見銀山を描いたのか興味がわいた。

私は島根県浜田市という町で生まれた。石見銀山がある所は浜田から東へ江津市大田市と進み、その山間にある。

そんな私は今北海道に住んでいる。なんだか不思議な縁を感じ本作を読んだ。

世界遺産も好きで、石見銀山世界遺産に登録されたころ、地元に帰ったついでに一度足を運んだ。当時はシャトルバスも出るなど観光客で賑わっていた。それこそ、本作の中でも登場する、江戸幕府の管轄になり、町が銀で栄え、たくさんの人が集まってきた頃のように。

石見の銀は当時、世界の1/3もの産出量をほこったと言われ、昔の外国の地図にも載っていたほど。金や銀はそのもの自体の希少性から価値が高く、みんな目の色を変えた。銀が出れば町は潤う。

この話に出てくる山師、喜兵衛は天才だった。その山師に拾われたウメ。

喜兵衛は山の鉱脈を探る天才、しかし、気候や山の事も考えながら採掘の指示をしていた。しかし、戦国末期が終わり、徳川時代の到来で街の様相は変わる。そして、間歩の掘り方も全て変わっていく。そんな現状に喜兵衛は意気喪失していく。山師として憧れを抱いていたウメ。間歩はおのこの場所、おなこであるウメ。成長とともに、幼女だったウメは確実におなことして成長し始める。山に入れない悔しさ、おなこになっておのこに屈辱され、ウメは生きる意味を問うていく。

そして、間歩に入るおのこたちもまた、日光に当たらず、鉱物を吸っての採掘で平均寿命は30歳、最後は血を吐きながら弱って死んでいく。そんな、銀山での女、男たちの物語。

昔は1つの山を越えるのも命がけ、生きるために掘る、町が栄えるため女は子供を産む。激動だった時代が思い浮かぶ内容になっていた。

 

 

彼女はそこにいる  織守きょうや

とある一軒家で起きる怪現象。

 

第一話 あの子はついていない

一話では母娘が一軒家に引っ越してくる話。引っ越してからというもの、リモコンが勝手につく、髪の毛が落ちている、花壇が濡れている、夜中にトイレが流れるというな些細な事が続き、あかりは徐々に不安になっていく。

これは幽霊の仕業なのか?友人の祖母に話を聞くが、あかりには何もついていないと。では家に何かがついているのか?悩んだ挙句、母に相談し引っ越すことに。

 

第二話 その家には何もない

空いた家となった一軒家。ここ数年で何組もの家族が引っ越している。過去に事故物件だったという話もなく、何かがおかしいと不動産業者の朝見は思う。大学の先輩だった高田はその家に関心を示す。2人の前でも何やら不審な怪現象はおこるが、高田は徐々にその真相に近づいていき・・・

 

第三話 そこにはいない

空き家になった家に引っ越したのは、もともと近所に住んでいた三ツ谷。三ツ谷は、大家とも仲がよく、このいわくがある家にあえて移り住んだ。さて、その三ツ谷の思惑とは??

 

最後まで話を読み終わったとき、目に見えない幽霊や怪現象より一番怖いのは人間だと思った。最後のクライマックスに至るまえに第一話から登場している三ツ谷という塾講師の男はこの話の鍵だと予想はついた。しかし、さらにその裏をかく物語が。

読んでみてのお楽しみ。

 

夜の向こうの蛹たち  近藤史恵

小説作家たちが織り成す女性の物語。織部妙は順調にキャリアを重ねていた。

ある日、美人作家として話題の新人、橋本なぎさの処女作に衝撃を受ける。

受賞パーティーで会った際、妙はなぎさの秘書だという初芝祐に興味を抱く。

2人に近づくにつれ、妙はなぎさと祐の奇妙な関係や、作品の雰囲気から2人に違和感を覚えるようになる。なぎさの描く内容はどことなく、祐の雰囲気がする。

女性たちが織り成す物語は、開けてはいけないパンドラの箱のように欲望の渦がうずまく世界への入り口だった。

 

本日は、お日柄もよく  原田マハ

好きな作家の1人でもある原田先生。

以前、風のマジムや旅屋おかえりを読了した時にも感じた読み終わった後の爽快感や幸せな気分。芸術系の作品も得意とする原田先生ですが、個人的にはこちら側のジャンルが好きです。1人の女性が軸になることが多く、昔からの男尊女卑のような社会の風潮の中で、頑張る女性がたくさんいて、そんな女性をもっと応援したいし、女性だけに負担をかけるのではなく、男の理解がもっと必要で、家事も育児ももっともっと協力ではなく自分事のように行う。そうすることでもっと男女平等の世の中がくることを願ってやまないです。

 

さて、今回の作品では老舗製菓会社でOLをしている二ノ宮こと葉。こと葉は結婚式で感動的なスピーチをする久遠久美という女性に出会う。

今回の作品で言葉には心がある。と感じた。ChatGPTなどIoTやAIはどんどん進化しており、いつの日か心を持った機械が現れるかもしれない。しかし、どんなに進化しても人と人との間に流れる空気や間、心のある言葉。それは取って変えることのできないものではないだろうかと思う。心からあるから人は言葉に傷つくし、感動をもする。同じような傷つく言葉を機械から言われても、そこまで傷つくことはないだろう。それは、人と人との間に流れる心情があるからだろう。

そう感じずにはいられない作品であり、本作の中でもたくさんの素晴らしい文や言葉が出てきた。そして、話す人、聞く人との間に流れる空気のようなものが暖かく、まるで自分のその世界に入りこんでしまい、その場にいるみんなとともに感情を共にしたような感じだった。おかげさまで本を読み終わるまでの間に何度泣いたことか。

素晴らしい作品でした。

内容として、久遠久美に出会ったこと葉は私と同じように言葉に魅了され、OLの傍らスピーチライターとしての仕事を学ぶ。

幼馴染みの今川厚志は大手広告代理店に勤めていたが、亡き父、元民衆党の幹事長の篤郎の思いや、民衆党の党首小山田の思いを受けて衆議院選に立候補することに決める。その厚志をサポートするため、こと葉は一念発起し会社を退職、スピーチライターとして専念することにする。相手は現与党の厚生労働大臣の黒川。巨大な相手にこと葉、厚志はまっすぐに、政権交代を目指し立ち向かう。

涙涙の物語。その結末はいかに!?

ぜひ読んでみてください。これまでたくさん本を読んできましたが、ベスト5に入るほど好きな作品でした。

 
ちなみに本作品の中で思わず、泣いた名言を紹介。
亡き今川篤郎が15歳の時、両親を亡くし孤独になってしまった久遠久美に対して伝えた言葉。
 
「なぁ久美ちゃん。困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。
三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩きだしている。
どうだい?そんなに難しいことじゃないだろ?だって人間は、そういうふうにできているんだ。
とまらない涙はない。乾かない涙もない。顔は下ばかり向いているわけにもいかない。歩き出すために足があるんだよ。
君のお父さんとお母さんが君に与えてくれた体を、大切に使いなさい。そして心は、君自身が育てていくんだ。大らかに、あたたかく、正義感に満ちた心に育ててやりなさい。そして、成長してほしい。」
 
心の奥深くにすっと入ってくる言葉。他にも多数、胸打たれる言葉があります。
 
 

 

マーダーハウス  五十嵐貴久

マーダー=murder=殺人、殺人罪、殺人事件などを意味する。

五十嵐先生といえば2001年「リカ」で第2回ホラーサスペンス大賞を受賞しデビュー。リカシリーズも現在、8弾まで出ていたと思いますが、シリーズ本を読む前にまず、五十嵐先生の作品に触れてみようと思い、今回の作品を手にしました。

表紙の雰囲気とタイトルに興味が沸き、読了。

最後の結末に衝撃。ある意味で予想外。ミステリーものは好きで最後の結末にビックリすることはよくあるが、この作品もそう。えっそっちのパターン!?という感じ。

 

新潟で生まれ育った藤崎理佐は、鎌倉にある大学の史学部に1浪した後、晴れて合格し入学することになった。引っ越し先を探していた理佐は、「サニーハウス鎌倉」というシェアハウスを見つけ、家賃も破格の4万5千円。南国風の別荘で充実した設備に興味を惹かれ入居することを決めた。

年齢は理佐が一番若いが10代後半から20代後半までの美男美女が8人集まっていた。そして、人柄が良い人ばかりで幸先の良い大学生活をスタートさせたのだが・・・

体育大学に通う鈴木の死をきっかけに事件は加速度的に展開していく。サニーハウスに隠された秘密とはいったい・・・。高校の時の同級生である高瀬と事件の真相に迫る。

 

読みやすく、一気読み必至です。そして最後の結末!!。ぜひ読んでほしいです。

 

1リットルの涙  木藤亜也

1リットルの涙と言えば、2005年に沢尻エリカさんが主演したドラマです。

その原作に当たる。木藤さんは脊髄小脳変性症を発症し、25歳という若さでこの世を去りました。

脊髄小脳変性症は神経難病であり、発症してから5~10年ほどしか生きられないという病気です。

小脳はバランスをとる中枢であり、そこが病に侵されることで、上手くバランスがとれず、歩きづらさを生じ、徐々に歩行困難になり、寝たきりとなります。

治療法は確立しておらず、対症療法で病気の進行を遅らせるという姑息的な方法をとるしかありません。

2023年7月、キッセイ薬品工業脊髄小脳変性症の治療薬「ロバチレリン」の承認申請の取り下げを発表というニュースがあった。

まだまだ完全な治療薬としては認められていないとうのが現状である。

認知症などの治療についてもそうだが、脳が萎縮し始めると元に戻すことは困難であり、あくまで認知症の予防や進行を遅らせるという部分に注力するしかない。

 

木藤さんの書いた原作本。病気による内面の苦しさなどが赤裸々に描かれており、生きる意味や、生きることの大切さなどを教えてくれる1冊になっています。